Working Out Loud 大声作業(しなさい)、チームメンバー同士でのトレーニング文化の醸成

ソフトウェアエンジニアリングと一見関わりはなさそうで、しかしチームで成果を出す過程においてとても重要だと筆者が考えているコンセプト、 "Working Out Loud" について書いてみます。

日本語の記事がほとんど見当たらないのであまり知られている言葉ではないかもしれません。

対象読者

以下に興味や関心を持つ方を対象読者として想定しています。

  • チーム開発におけるコラボレーション手法
  • チーム開発者としての振る舞い方
  • テックリードスペシャリストの育成

が、本心ではチーム開発する全ての方に届いてほしいです。

まえがき

ある夜に同僚の@ujihisaと近場ないし遠方のEngineering ManagerやVPofEの皆さんと話す機会があり、その折にふと筆者がこぼしたのが

「開発などの日常の業務において自分がやっている以下の思考様式が大変便利なので、この考え方を最近入社したメンバーにもインストールしたいんですよねぇ」

という話。その"思考様式"とは:

  • 作業が途中であってもチームメンバーの目の触れる場所にガンガンアウトプットする
    • Slackなどのチャットツールで実況中継しながら作業したり
    • 設計やコーディングがWork in progressな状態でもフィードバックを募ったり
  • 作業で詰まったらとにかく尋ねる
    • 簡単に手伝ってもらえるのに1人で行き詰まっているというのはプロの振る舞いではない*1

するとこれを聞いた@ujihisaから

「それは単なる思考様式ではなくスキルだから、言って3秒で即実践はできない。実践を繰り返して習熟する必要がある」

という鋭い指摘。さらには

「古巣ではそうした働き方をWorking Out Loudと呼んで推奨していた」

との追い情報。

なるほど名前が付いているならば掘り下げてみるか、ということで調べた結果を次のセクションでお話します。

f:id:ohbarye:20181113124318p:plain 「誰かに何かを伝えようとしている状態」を表現する写真です

Working Out Loud とは

@ujihisaから話を聞いた段階では彼の古巣の社内テーゼかと思っていたのですが、どうやらそうではなくより広範に知られる何かであるということがGoogle検索から0.59秒後に判明しました。

このあとの調査過程を一切省略し、結論を書きます

「Working Out Loud」というコンセプトは、元来はEli LillyのソーシャルエバンジェリストBryce Williams氏が考案した言葉であり、以下の式を用いて説明されるものとのこと。

Working Out Loud(コラボレーションによる成果の達成)= Observable Work(作業の可視化)+ Narrating Your Work(作業の共有)

さらに、Deutsche BankのマネージングディレクターであるJohn Stepper氏が一歩先に進め、『Working Out Loud: For a Better Career and Life』という本を執筆しています。 http://workingoutloud.com/ においてもJohn Stepper氏が中心人物として据えられているようです。

Working Out Loudの実践で何が得られるのか

John Stepper氏の文章等を読むに、どうやらこのコンセプトの適用可能範囲は非常に広く、社内に留まらず社外または人生における人と人との繋がりを豊かにするというところまで話が及ぶようでした。

その総体をじっくり味わうのも面白そうではありますが本記事で私が推したいのは社内コラボレーションの側面です。John Stepper氏のインタビューを参照しつつ、Working Out Loudを実践することで得られる効用について語っていきます。

メンバーにとっての嬉しさ

すでにこうした働き方をしている方や、そのような振る舞いをする同僚を持った経験がある方なら馴染み深いものかもしれません。また、ペアプログラミングやモブプログラミングはこれらを突き詰めた状態ともいえます。

  • 作業が可視化される
    • 早い段階でのフィードバックを得られる
    • 素晴らしいアイデアを隠しておいて、それが完成するまで誰にも話さないというのは、リスクの高い大きな賭けだ。早い段階で設計ミスをしやすくなるし、車輪の再発明をする可能性があるし、誰かと協力するメリットが失われる。*2

    • どのような問題にしても、生産プロセスの中で、できるかぎり〝価値が最低〟の段階で問題を発見して解決すべきだということである*3

  • 作業の結果ではなく過程における思考のプロセスも可視化される
    • 最終成果物のレビューが容易になる
    • 新人からすれば傍から作業を見ているだけで学びになる
  • 時折、情報がチームの枠を超えていく
    • チームの外からの突っ込みが入ったり
    • 思わぬところで関心のある情報に出くわしたり

インタビューの中でStepper氏は以下のように語ります。

Working Out Loudはアイデアの拡散や発見を容易にします。...情報は組織図に沿って流れるのではなく、従業員が必要としているものや興味深いと感じるものに基づいて、組織の境界を簡単に越えていきます。...「Working Out Loud」を実践することで、従業員は仕事をより楽しめるようになります。*4

実践する側だけでなく実践される側にもメリットがある、というのが肝心要です。

チーム・会社にとっての嬉しさ

Working Out Loudは、従業員のデジタルスキルを高めます。知識を利用、構築する技能が高まり、会社全体で目的を持ったつながりを作る能力が向上します。これにより、あらゆるレベルの従業員の効率性を高めることができます*5

ここ、めちゃくちゃ大事です。私はこの言葉を「"Working Out Loud"の実践を通じ、"ノウハウ・マネジャー"としての振る舞いをメンバーが獲得していくのだ」と解釈しました。

"ノウハウ・マネジャー"とは何か?

ノウハウ・マネジャーとは、Intelの元CEOであるAndrew Stephen Grove氏のマネジメント論にて中で重きを置かれる存在で、組織の中で周辺にいる人々にとって知識と技能と理解の源泉となっている人々のことです。彼/彼女らはスペシャリストであり、組織の中の他のメンバーに対してコンサルタントのように振る舞うエキスパートです。

名前は何であれ各社でテックリードスペシャリストとか呼ばれる存在がイメージに近いかもしれません。何の指示がなくとも自主的に社内勉強会を始めたり、気付くといつも誰かとペアプログラミングをしているような方はいませんか。彼らがノウハウ・マネジャーや、その候補です。

詳細は『High Output Management』をご参照ください。

"ノウハウ・マネジャー"の振る舞いを獲得するとどうなるか?

ノウハウ・マネジャーまたはその候補がWorking Out Loudを実践すると、それだけで知識や技能や情報が伝播されることになります。

また、そのレベルに到達しないメンバーであってもWorking Out Loudを実践すると、それを見たノウハウ・マネジャーまたはその候補が適切な助言や手助けを行うことができるようになります*6。教わった側に受け渡された知識や技能は、次のノウハウ・マネジャーの萌芽です。

こうしてチームメンバー同士でのトレーニング文化が醸成されていきます。

ノウハウ・マネジャーは社内の情報ネットワークの中で結節点になるので、彼/彼女らの行動はレバレッジが効きます。ノウハウ・マネジャーの増加はチームを改善できる優れたレバレッジポイントの獲得に等しく、チームのレベルを一段上に引き上げるための条件だと言えると思います。

おわりに

"Working Out Loud"、いかがでしょうか。

単なる作業効率化にとどまらず、行き詰まったチームを前に進めたり、テックリード的な存在を育成する上で避けては通れない魅力的なコンセプトに見えてきたのではないでしょうか。

筆者のチームの課題

さて、こうした話をするからには筆者はさぞかし立派なチームを作っているんだろうな!?と突っ込みがあるかもしれませんが、正直言って道半ばです。

前述の通り"Working Out Loud"の実践には習熟が必要で、どのようにしたら爆速で習得できるか?という問に対する答えは未だ持てていません。

また、このコンセプトを口頭で正確に伝えるのにも苦慮しているところだったため、こうして一度文章としてまとめて実践への後押しを試みた次第です。


余談ですが、一度アイデアを社外に出して社内に再度持ち込むとスッ…と馴染む現象、あると思います。『Fearless Change アジャイルに効く アイデアを組織に広めるための48のパターン』において「外部のお墨付き」として知られるパターンですね。


本記事はEngineering Managerの@ohbaryeが執筆しました。

末筆ですが、Quipper東京オフィスではLoudに働いてみたい方を募集しております。

https://www.quipper.com/career/Japan/

*1:Clean Coder』より引用

*2:Team Geak』より引用

*3:High Output Management』より引用

*4:インタビューの"Q. How do these platforms benefit employees?"の回答より

*5:インタビューの"Q. How does “Working Out Loud” benefit the firm?"の回答より

*6:優れたノウハウ・マネジャーは"常にそこにいる"という振る舞いを心得ています。