スタディサプリ Product Team Blog

株式会社リクルートが開発するスタディサプリのプロダクトチームのブログです

AWS IAM の管理を miam から Terraform に移行した話

こんにちは。 SRE の @suzuki-shunsuke です。 AWS IAM の管理を miam から Terraform に移行した話を紹介します。

なお、 AWS や miam に限らず「Terraform で管理されていない大量のリソースを Terraform で管理する」ことを検討している方には参考になる内容かと思います。

背景

本ブログでも何度か紹介したとおり、弊社では AWS のリソースを Terraform で管理しています。 しかし、実は IAM に関しては miam という別のツールで主に管理されていました。 miam は AWS IAM を管理することに特化したツールです。 miam には以下のような特徴があります。

  • RubyDSL によって柔軟にリソースの定義ができる
  • miam によるリソース管理を強制できる
    • DSL で定義されていないリソースは削除されてしまう(正規表現で exclude するルールは定義できる)

弊社で miam が採用された理由は、自分が入社以前のことなので分かりませんが、 社内で Ruby が広く採用されており、 RubyDSL でかけることの親和性が高かったのかなと思います。社内に miam のコントリビューターが複数人いたというのも大きいでしょう。

しかし最近では Terraform の CI が整備され、以前に比べてだいぶ快適になったこともあり、 IAM Role を中心に Terraform で作られることも多くなってきました。 例えば CodeBuild の Service Role なんかは CodeBuild Project と一緒に Terraform で管理したほうが楽です。 Terraform で管理するようにした場合、 miam の方で削除されないように exclude するルールを追加しないといけないのですが、これが面倒でした。 また、 miam によるリソース管理の強制は、 IaC を強制するという意味では重要ではありますが、 これがブロッカーになることもままありました。 Pull Request (以下 PR) を作成し dry run を実行したら、関係ないリソースが削除されそうになっていて、それをなんとかするまで他の変更ができないといったケースもままありました。 Terraform の場合 State を細かく分割しているため、ブロッカーが発生するリスクはだいぶ低く抑えられています。 他にも色々理由はありますが、そういった理由のもと、 IAM 管理を miam から Terraform に移行することにしました。

どうやって移行するか

  1. Terraformer によってすべての IAM リソースを一つの State に import
  2. tfmigrator を使って Terraform Configuration と State を分割・整形
  3. 分割した State 及び Terraform Configuration の Terraform のバージョンを upgrade
  4. 分割された State 及び Terraform Configuration を Terraform の Monorepo に追加

Terraformer を使うと実際のリソースをもとに Terraform Configuration と State を自動生成することができます。 それで終わりであれば話は簡単なのですが、そうもいきません。 弊社では State をマイクロサービスや環境(staging, production, etc)といった単位で細かく分割しているため、 生成された State や Terraform Configuration を分割する必要があります。 Terraformer の import 対象のリソースをフィルタリングする機能を使って 分割して import する方法もあるかもしれませんが、 そうすると同じリソースを重複して import したり、はたまた import されないリソースが出たりする懸念があったので、 フィルタリングは使わずすべての IAM リソースを一つの state にまとめて import したあとに分割するという戦略を取ることにしました。

$ terraformer import aws -r iam -v --profile=sapuri --regions ap-northeast-1

また、 Terraformer で生成された Terraform Configuration のリソース名は割と綺麗ではなかったりします。

例えばこんな感じのファイルが生成されます。

resource "aws_iam_group" "tfer--foo-002D-production" {
  name = "foo-production"
  path = "/"
}

これを次のようにリネームしたいと思いました。

resource "aws_iam_group" "foo-production" {
  name = "foo-production"
  path = "/"
}

もちろん HCL だけでなく State も更新する必要があります。

tfmigrator

これらを実現するために、 tfmigrator という Go のライブラリを使い、簡単なプログラムを実装しました。 次のようなコードを書くことで Terraform Configuration と State をマイグレーションできます(下記のコードは tfmigrator v0.5.1 を使っているので、将来的に API が変わる可能性があります)。

package main

import (
    "context"
    "log"
    "os"
    "os/signal"

    "github.com/tfmigrator/tfmigrator/tfmigrator"
)

func main() {
    if err := core(); err != nil {
        log.Fatal(err)
    }
}

func core() error {
    ctx, stop := signal.NotifyContext(context.Background(), os.Interrupt)
    defer stop()
    return tfmigrator.QuickRun(ctx, tfmigrator.CombinedPlanners(
        tfmigrator.NewPlanner(removeTerraformTag),
        tfmigrator.NewPlanner(policy),
    ))
}

// ManagedBy: Terraform という Tag がついてたら、既に Terraform で管理されているはずなので除外する
func removeTerraformTag(src *tfmigrator.Source) (*tfmigrator.MigratedResource, error) {
    tags, ok := src.Resource.AttributeValues["tags"]
    if !ok {
        return nil, nil
    }
    if tags == nil {
        return nil, nil
    }
    managedBy, ok := tags.(map[string]interface{})["ManagedBy"]
    if !ok {
        return nil, nil
    }
    if managedBy.(string) != "Terraform" {
        return nil, nil
    }
    return &tfmigrator.MigratedResource{
        Removed: true,
    }, nil
}

func policy(src *tfmigrator.Source) (*tfmigrator.MigratedResource, error) {
    if src.Resource.Type != "aws_iam_policy" {
        return nil, nil
    }
    name := src.Resource.AttributeValues["name"].(string)

    // foo-production という IAM Policy を foo/production に分割し、リソース名を IAM Policy name と同じにする
    if name == "foo-production" {
        return &tfmigrator.MigratedResource{
            Address:        src.Resource.Type + "." + name,
            Dirname:        "foo/production",
        }, nil
    }
    return nil, nil
}

上記のように tfmigrator.QuickRun という API を使うと次のようなコマンドが実装できます。

$ go run main.go -help
$ go run main.go -dry-run -log-level=debug *.tf

上のサンプルだとちょっとわかりにくいかもしれませんが、 次のような引数と戻り値を取る関数を実装すればマイグレーションができます。

tfmigrator CLI

tfmigrator には Go のライブラリだけでなく、ライブラリを使って実装された CLI もあります。 https://github.com/tfmigrator/cli 上記の例だと次のような設定ファイルを書けば良いです。

tfmigrator.yaml

rules:
- if: |
    "tags" in Resource.AttributeValues and
    "ManagedBy" in Resource.AttributeValues.tags and
    Resource.AttributeValues.tags.ManagedBy == "Terraform"
  removed: true
- if: Resource.Type == "aws_iam_policy" and Resource.AttributeValues.name == "foo-production"
  address: "{{.Resource.Type}}.{{.Resource.AttributeValues.name}}"
  dirname: foo/production
$ tfmigrator run *.tf

柔軟性という意味ではライブラリより劣りますが、基本的なユースケースならこれで十分だと思います。

tfmigrator を使う上での注意点

tfmigrator を使う際は、一気にすべてのリソースを分割しようとするのではなく、 一個ずつシンプルなルールを記述してはマイグレーションを実行し結果をチェックするのが良いと思います。

  • 一個ずつルールを追加してはマイグレーションの実行を繰り返す
  • HCL と State を Git で管理しておくと間違えても戻せる
  • マイグレーション前に DRY RUN は実行する
  • ルールは曖昧にせず、対象の attribute を明確にする

Terraform を upgrade

残念ながら Terraformer は version 0.8.14 の時点で Terraform v0.13 までしかサポートしておらず、生成されたコードを v0.15 まで upgrade する必要がありました (特に既存の State に組み込む場合にはバージョンを揃える必要があります)。 幸い HCL の修正はほぼ不要でしたが、 terraform apply を実行して State を更新する必要がありました。

なお、 Terraform v0.15 に対応する PR が出ているので、いずれ対応するかもしれません。

https://github.com/GoogleCloudPlatform/terraformer/pull/845

分割された State 及び Terraform Configuration を Terraform の Monorepo に追加

分割された State を既存の Terraform リポジトリに追加していくわけですが、 State によって以下の場合があります。

  • 新規の場合
  • 既に State が存在する場合(関連するリソースがTerraform で既に管理されている)

新規の場合は簡単で Backend の設定をしたあと terraform init を実行して State を S3 に upload したあとに PR を投げれば終わりです。 既に State が存在する場合は State をマージする必要があるのですが、 terraform state mv とかしていると時間がかかるので 直接 State を手で修正しました。

$ terraform state pull > terraform.tfstate
$ vi terraform.tfstate # serial を increment しつつ、新しく生成した State の内容を追加
$ terraform state push terraform.tfstate

Terraformer で一度 import したあとに miam で IAM リソースが変更されると面倒なので、リポジトリ自体を archive しておくと無難です。 ただ archive するにしても長期間 IAM が更新できない状態なのは困るので、移行中はこの作業に専念して数日で終わらせました。

さいごに

以上、 Terraformer と tfmigrator を使い、 AWS IAM の管理を miam から Terraform に移行した話を紹介しました。 ちなみに、 IAM を移行したあとに AWS Route53 の管理も同様に Roadworker から Terraform に移行しました。 リソースが Terraform 以外のツールで管理されていたり、はたまた全くコード管理されていない状態から Terraform で管理するようにしたいというケースはままあったりすると思うので、そういった場合に参考になれば幸いです。

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