スタディサプリ Product Team Blog

株式会社リクルートが開発するスタディサプリのプロダクトチームのブログです

デザイン思考とデータ分析のミエナイ落とし穴

はじめまして、Quipper 東京オフィスでデザイナーをしております @daitorii です。

幼い頃は公園でよく落とし穴を掘っては友達が落ちて行く様を笑い転げて見ていました。なんでこんなのに引っかかるんだよ、俺は絶対に引っかからねえ。とは思っていたものの、もちろん自分も落とし穴にハマり(しかも結構壮大だったし若干トラウマ)、子供ながらになんとなく感じた古い記憶があります。

「自分が当たり前だと思っている前提や認識は、誰かにとっての当たり前ではない」

という事です。

今日はリアルな落とし穴の話ではなくデータの分析やデザイン思考の落とし穴の話。 ですが、実は根本的な問題は同じような気もしています。

デザイン思考と科学的方法

最近よく「デザイン思考」という言葉を耳にする方も多いと思いますが、結局のところそれは何だということで Wikipedia 先生に聞いてみました。

デザイン思考(でざいんしこう、英: Design thinking)とは、デザイナーがデザインを行う過程で用いる特有の認知的活動を指す言葉である デザイン思考 - Wikipedia

「デザイナーが」という主語で、あたかも見た目のデザインを指す思考法のように聞こえます。実際にはそれ自体を目的とした思考ではなく、課題解決のアプローチとして「ユーザーの目線で考えて何が問題かを明らかにし、どうやったらそれを解決できるか」という、まあ至極まっとうな思考法と私は理解しています。

デザイン思考には5段階のプロセスがあるとされており、観察・共感・洞察から始まり、問題の定義、アイディエーション・視覚化、プロトタイプ、テスト~評価・改良、というサイクルを回していきます。

一方で、

このアプローチとは対照的な科学的方法では、問題の解決を生み出す際にその問題のパラメータを徹底的に定義することから始められる。他方のデザイン思考は、現況について既知の側面だけでなく未確定の側面も合わせて同定・検討することにより、目標達成につながる隠れたパラメータと代替的手段を切り開こうとする。デザイン思考は反復的な性格を有しており、途中で得られた「解決」は他の道へ繋がる潜在的なスタート地点でもあり、場合によっては最初の問題を再定義することもありうる。 デザイン思考 - Wikipedia

このように、デザイン思考はいわゆる分析思考とされるロジカルシンキングとの対局として言われています。

が、個人的には課題定義の為の仮説出しの手段として、また実際のソリューションに対する評価として、デザイン思考の対とされる分析思考とも仲良くするべきだなと考えています。

データ分析の落とし穴

Google AnalyticsAdobe Analytics などのアナリティクスツール、統計データや経済指標、ユーザーアンケートデータ等、私たちのまわりには様々なデータが至るところに転がっています。

データそれ自体には疑いの余地はないのですが(もちろん改ざんなどはしていない前提で)、解釈の仕方やデータの切り取り方次第でいくらでも都合の良い解釈 a.k.a 真実のねつ造が出来てしまう事も事実です。

つまり、定量的なデータを見ることは非常に重要かつ有用であるものの、この解釈の仕方如何ではそこから分析した結果・傾向、結論を事実と異なるように定義づけることもできてしまうという事です。

ユーザーの課題は1つに集約されるわけではなくそのニーズの分だけ多岐にわたります。それらのバランスや重要度を知るため、または検証のプロセスにおいて分析思考やロジカルシンキングは非常に有用と感じると同時に、平面的なデータ分析自体に傾倒してしまい様々なニーズや課題を一緒くたに結論づけてしまう事もあります。ゆえにこれだけでユーザー課題を定義する事/解決手法を探るには足りないと感じるわけです。

だからこそデータで見える事実と観察や共感のバランスをうまく取り、問題を定義する事、その解決アプローチをデザイン思考で考えることが重要なのではないでしょうか。

相関関係と因果関係

分析思考の落とし穴によくハマっていた時期がありましたし、今でもよくこの穴にハマります。Google マップに載ってるといいんですがもちろんそんなことはないので、相関関係や疑似相関、因果関係を紐解いて考えるようにしています。

相関関係は [ A ]が増える/減ると[ B ]も増える/減るというような関係。因果関係は[ A ]が原因で[ B ]が起こるという関係です。(これに関してはいろいろな書籍や記事が詳しいので、興味があれば本格的な話はそちらで。)

例えばこんな例で考えてみましょう。

とあるユーザー調査で「貯蓄額が多い人は肉食よりも魚食などの質素な食事が多い」という結果が出ました。これを表面的に受け止めると「普段から質素な食事をとるような人の方がお金が貯まりやすい」とも言い換えられる訳です。

相関関係という点で見ると「食事で魚を食べる回数」と「貯蓄額」に正の相関関係が見えるわけですが、「食事内容」に起因して「貯蓄額が増える」わけではないので因果関係でないのはもちろん、実はそもそもの相関関係ですら副次的な関係なのです。

実際には貯蓄額が多い世帯は年齢が高く、年齢が高い世帯は肉よりも魚が好き、という疑似相関の関係があるところからこのような解釈ができてしまいます。

ともすれば「貯蓄を増やすには肉よりも魚を!データが示した新事実」とも言えてしまうし、「貯蓄するなら質素な食事で徹底削減」とも言えてしまいます。これが解釈の仕方で恣意的に分析した結果です。なんだか昼の情報番組のようになってきましたね。

データとしての事実は、「年齢が高いほど貯蓄額が多い」というデータです。これに誤った解釈を与えてしまうと上記のような分析になってしまいます。

行き来する思考

実際私も前職で新規事業に携わっていた際、事業計画を作るときに自分の都合の良いように解釈し数字を読み違え(て詰められ)たり、現在でもバイアスのかかったニーズを本質的なものとして考えてしまったり、プロダクトの改善においてそもそもの課題設定を誤ってしまう事があります。

ただしそういった誤認の危険性を孕んでいる事を踏まえた上で、現状のコンディション把握や相対的に物事を知る事は、課題「仮説」を考えるきっかけにはなります。

では逆に実際にユーザーに会いインタビューをしたりアンケート調査をすれば、上記のような事も起こりえないのでしょうか。

これも設問設計が誘導的であったり、そもそものパネルがバイアスを含んでいたり、1人の意見が総意としてニーズの幅を勘違いしてしまったりと、データ分析同様に誤認の危険性や落とし穴があります。

私がこれらの落とし穴にハマらないように気をつけていることは、

  • ファネルを改善することで十分なのか等、改善すべき数字自体に意味があるか
  • 数字を俯瞰して「良すぎる」などの違和感はないか
  • アンケートやインタビュー、「ユーザーの声」の対象者に偏りはないか
  • n数は十分か
  • 設問の聞き方が誘導的/強制的ではないか

などを常に考えること。根本的には何を解決したいのか/解決するべきなのかを意思を持って考え、データを分析する検証だけで実現可能なのか、そのデータが正しいのか、課題自体をもっと探るべきではないかなど自身を疑うことです。

解決すべき課題自体をどのように設定するのか。それにはユーザーの行動を知り、シナリオを作り、ポイントを整理してから仮説検証するのが良いでしょう。また、新規サービス/プロダクトを創造し課題解決するアプローチと、既存サービス/プロダクトへの改善アプローチは異なると思いますので、事業やプロダクトの各フェーズにおいて適切な手段とプロセスを考えることも必要です。

つまるところどちらが良いという話でもなく双方を良いバランスで行き来し、俯瞰して考えるのが良いのではないでしょうか。まずは落ち着いてみましょう。先入観や決めつけた前提のもと歩くと盛大な落とし穴には気づきません。

さいごに

前述のように、やろうと思えばデータは都合の良いように解釈できますし、ユーザーの声は誘導する事もできます。相関関係があるから因果関係があるとは限りませんし、1人のニーズは総意ではなく様々なニーズの中のひとつです。

データを俯瞰してみる、コンディションを知る、仮説を持ってユーザーに会う。意見ではなく事実を聞き出し課題を探り、アプローチ方法を考える。分析思考とデザイン思考を何度も行き来しながら、最終的に本質的な課題解決を考える。

フォードの創業者、ヘンリーフォードは

「もし人々に何が欲しいかを聞いていたら、彼らはもっと速い馬が欲しいと答えていただろう」

と言っています。自動車が生まれる前の時代の話です。 ユーザーは答えを知りません。その要望からは自動車というイノベーションは生まれません。

ユーザーが期待している事に答える事が当たり前の課題解決だとして、分析思考だけではイノベーションのジレンマを乗り越えられません。現在の構造を把握し既成概念を壊し再構築する事で、新たな価値を提供する必要があるのです。

ユーザーの体験は画面の中の話だけではなく、商品やサービスを認知するところからはじまり、使っている最中はもちろん利用後の行動まで続きます。だからこそユーザーの本質的なニーズを知り、ユーザーの課題やサービス/プロダクトの課題を明らかにする事で、ユーザビリティだけではない本質的な体験設計を考えなければいけないのではないでしょうか。

これを機に自らのふんどしも締め直そうと、改めて思いました。 みなさんにおいても、思考プロセスや通勤プロセスにおいての落とし穴にはくれぐれもご注意ください。

なお Quipper ではそんな落とし穴に興味のあるデザイナーを募集しております。我こそはと思う方のご応募お待ちしております。

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